「では……占いには興味ありませんか? ギルティイノセント帝国が侵略戦争を開始した頃のクセルルクスは、プログノという水晶を使う占いの得意な女王が統治していた時期があるんです」
「占い師が女王に?」
「はい。王の名はリューシャ・ミハイロヴィチ。大帝レオニードの直系であるマイア・アレクセーエヴィチが当時まだ幼かったこともあり、リューシャが王国初の未婚の女王として担ぎ上げられたようです。後継者争いで対立していたいろいろな派閥にしてみれば、政治的に大した力を持たない彼女は御しやすいと思えたのでしょう」
「ははあん。最初から傀儡政権にしてやろうって考えていたわけか」
「はい。もちろん彼女も対策はしたようですけどね。実弟のルスラン・ミハイロヴィチを宰相に置き、全ての執政を任せましたし、国民にも毎月のように予言を公布していました。それが彼女自身か、彼女を利用しようとしていた貴族たちの思惑なのかはわかりませんが、おかげで国民人気はかなり高かったようですね」
「なるほどねぇ。で? その女王の予言ってのは当たったのかい?」
「はい。国民に伝えていたのは天候や天災に備えろとかそんなことばかりだったようですが、記録によれば占い結果は百発百中です」
「百発百中? さすがにそれは古文書がまた大げさに書いているだけなんじゃないのか? 本当に未来が見えるなら、戦争の勝ち負けだって見えていたってことだろう?」
「そう書いてあるんですから仕方ないじゃないですか。リューシャに本当に未来が見えていて、その運命に抗ったのか、それとも運命を受け入れていたのかなんて、私にだってわかりません。抗える運命だというなら、その予言は百発百中ではなかったということになりますし」
「……なるほどな」
「もちろん私だってこの記述に思うところがないとは言いませんよ。何をしても絶対に占いの結果通りになるんだとしたら、その占いに意味なんてないでしょうし」
「いやあ、意味はあるだろ」
「そうですか?」
「ああ。未来が分かっていれば覚悟を決める時間を作ることはできる。例えば、明日の朝には絶対に二日酔いになるって予言があったとしよう」
「……そうならないよう今晩は酒の量を控えておこう、と?」
「逆だよ。どうせ二日酔いになるのが決まっているなら、気兼ねなく飲んでしまおうってことさ。ほら、飲め飲め! おーい、追加の酒をあと2本、いや、3本持ってきてくれ!」
「なんて破滅的な!」
(続く)