エピソード 0 - EPISODE 0

「武装/逃走」後編

もう仕事どころではなかった。

憲兵に相談に行き、守ってほしいと願い出た。
取り合ってもらえなかった。

狙われる理由として古文書の内容について話したら頭のおかしい男だと思われたのか、むしろ憲兵たちに警戒されるようになってしまった。酒場でドミトリーに向けていた視線を今度は俺が浴びる番だった。
工房を監視する目にも、いつしか機械だけじゃなく、憲兵の目も加わるようになっていた。恩義のある親方を巻き込むわけにはいかなかったので、俺は長期の休みと今日までの給金をもらって、奴らをやり過ごすことにした。いずれは奴らの目を盗んで密かに街を出るつもりだ。 

親方のところからは愛用のノミと金槌だけは借りていくことにした。いざとなったらこいつで襲撃者の頭をカチ割ってやるつもりだ。

休みをもらうと同時に下宿は出たが、自宅には戻っていない。再び襲撃されてもたまらないし、ひとりになるのは恐ろしかった。だから宿を転々としながら、夜は情報収集を兼ねて飲み歩くことにした。さすがの奴らも、人目のあるところで襲ってくることはないようだからだ。ドミトリーは執筆期間だとか言って、家に閉じこもったのが失敗だったのだ。

情報収集の甲斐はあった。
最後にリタと会ったのが三か月前。その間にリタは冒険に失敗して行方不明になったらしかった。
無人のミニガレオンだけがどこかの遺跡だか廃坑だかの近くで見つかったらしい。噂によれば墜落の痕跡もあったそうだ。リタの『ピッコラ』は今、この町のスカイガレオンサポートに運ばれて、新しく買い手がつくのを待っている状態とのことだ。

もはやこれは俺と奴らとの戦争だった。
生きるか死ぬかの戦いだ。
戦いには武器がいる。立ち向かうために乗り物がいる。
リタには悪いが、両方の条件を満たす『ピッコラ』を借りることにした。
今の俺には、たった一人でもフォレストアイランズの蒼天を駆け抜けられる、戦う船が必要だった。

その夜の俺は、とてつもなくツイていたのだろう。
リスクはあったが、スカイガレオンサポートへの潜入は成功した。
持っていた金槌が侵入の役に立ったし、幸運にも『ピッコラ』の修理は終わっているようだった。操縦方法はすでにリタに教えてもらっているし、あとは誰にも気づかれることなく4王国が統治している国よりも外まで飛び立つだけだ。それでも追ってくるなら、一か八か設置してあるカードサークルを使って薙ぎ払ってしまえばいい。
そう思ってカードサークルに目をやると、そこにはカードではなく、一冊の本が乗っていた。なんだろうと思って近づいて、俺は思わずその本を取り落とす。

「……なんでこんなところに、こいつがあるんだよ」


それは三か月前に奴らが持っていったはずの古文書だった。

(続く)