エピソード 0 - EPISODE 0

「戦艦/召喚」後編

俺は頭を切り替えて、古文書の内容を記憶の中で検索した。

「ざっくり言えば、今みんなが知っている歴史は何者かによって改ざんされているっていうのが古文書の内容だ。ギルティイノセント帝国がフォレストアイランズ全土に侵攻を開始した時代の、4つの強大な国家の存亡と戦いについてが書かれている。知られざる歴史ではこうなってるってな」

「それはわかったけど、あたしたちの知る歴史と何が違ってるの? 4つの国家が侵略と休戦を繰り返した結果、今もそれに連なる国家がフォレストアイランズを統治している。それだけのことでしょう?」

「だからこそよくわからないんだ。国家の醜聞がバレたからといって、今の国家の屋台骨が揺らぐとは思えない。そもそも浮遊島に移住してからずっとフォレストアイランズの歴史はどの国も侵略と防衛の繰り返しだ。侵略の歴史なんて学べばすぐにわかることだし……侵略?」

「どうかした?」

「いや……そういえば侵略者という単語が古文書にずいぶん多く出てきていたなって」


「すごいわね。あんた、借りた本をそこまで読み込んだの?」

「……内容を暗記するくらい読むまでは返さなくていいってドミトリーがいうからよ」

「そう……律儀なことね」

「えーと、待て。思い出す。…………」


思い出さなくても懐には古文書がある。本来は取り出して確認すればいいだけなのだか、今はこの思い付きに余計な情報を入れたくはなかった。しばらくしてようやく引っかかっていた何かの正体に気づく。

「……思い出した。この古文書はセブンス連合の連合書記官メルヴィン・エルズバーグの視点から書かれた記述が多い。その彼が侵略者という言葉を繰り返し使用していたんだ」

「ふぅん」

「興味なさそうだな。だけどもう酒の肴の四方山話で済ますわけにはいかないだろ。命がかかっているんだとしたらさ」

「そうね」

「それにこの人物は妄想じゃなく実在しているんだ。家系図によるとメルヴィンはセブンス連合の大統領だったギデオン・エルズバーグの甥だ。というか、俺はこの古文書の筆者こそメルヴィン・エルズバーグなんじゃないかっていう予想もしている。こいつの故郷になら、もしかしたらこの古文書の原本らしきものが残されているかもしれない」


「待って。何いいこと思いついたみたいな顔してんのよ。悪いけど今から『ピッコラ』ちゃんを飛ばすのは無理よ。そんな遠出ができるほどフォースは備蓄してないの。どっちにしても夜明けには街に帰るしかないわ」

「そうなのか……。そっちにあるのはフォースとは関係ないのか?」

「関係ないわ。これはカードサークル。錬金術や召喚に詳しい知り合いに特別に設置してもらったの。自慢になっちゃうけど、普通のトレジャーハンターじゃ手に入れられない代物よ」

「何をするものなんだ?」

「古の神々を封印したカードを安置して神様とか怪物を召喚するのよ」

「すごいなそれ。……いや、まずくないか? そんなものがあったら小さな集落なら簡単に壊滅させられちまう。冒険者風情が個人で持っていていいものじゃない」

「それくらいわかってるわよ。だから荷物運びのゴーレムちゃんを呼び出すくらいしかしてないじゃない」


なるほど。倉庫で姿を見ないと思ったら、ゴーレムは毎回これで召喚されていたのか。聞けば聞くほど、すごい技術だ。

「だいたい誰かを攻撃なんかしたら、あっという間にお尋ね者になるわ。国家が所有するスカイガレオンが出てきて捻り潰されるのがオチね。こっちは民間船、あっちは戦艦。当然カードサークルも詰んでるし、機動力がそもそも比べものにならないわ」


国と喧嘩をしたら勝ち目はない。
今度の暗殺者は、戦艦も召喚も使ってくる相手なのかもしれないのだぞ、と。
それはリタなりの、古文書を捨ててこの件からさっさと手を引けという、優しい忠告なのかもしれなかった。

(続く)