エピソード 0 - EPISODE 0

「悲報/秘宝」前編

ドミトリーから古文書を預かって三か月が過ぎていた。

ドミトリーとは酒場で会う機会も極端に減ってしまった。少し前に酒場の外で見かけたから酒に誘ってやったというのに、断られてしまったくらいだった。一丁前に執筆期間だからとか言って禁酒しているらしい。
ちなみにドミトリーから預かった古文書についは、まあ、読んではいる。
古文書を返そうとすると、ドミトリーが記述の内容確認をしてきやがるので、なかなか返せないのだ。

「もう少し預けますので、ちゃんと読んでから返してください」

と、そんな調子だった。

「やれやれ。この量を暗くなる前に全部工房に運び入れるの無理じゃねぇかな」


そんな中でもきちんと仕事をこなしている俺は褒められていいと思う。

「ちょっとちょっと。今日中に全部運んでくれなきゃ困るよ。『ピッコラ』ちゃんが墜落するんじゃないかって冷や冷やしながらここまで運んできたんだから」


現実はつらい。実際は弱音を吐いたくらいで怒られるありさまだ。
俺の愚痴にいちいち文句をつけている、ひらひらした旅衣装の女はリタ。フリーのトレジャーハンターだ。
トレジャーハンターといえば、国家に代わって遺跡なんかの探索をするお宝探しの代行集団ってイメージだが、だからといって全員が全員、国家専属というわけでもないし、トレジャーハンター組合に所属しているわけでもない。このリタのようにコネやカネを使い、自分でガレオンサポートから飛行艇ミニガレオンを入手して宝探し屋を営む者もいるようなのだ。むしろ優秀な奴ほど独立してやっていると聞いたこともある。
もっともリタが優秀かどうかはよく知らない。俺にとって彼女は、石工の親方が注文した大きな石や変わった素材の石を他所の浮遊島から運んできてくれる運送屋でしかないのだから。

「悪い悪い。大丈夫だよ。これからやってくる応援の荷車の数次第だが、日が暮れるまでにはなんとかなるさ」

「頼むわよ。いつまでもこんな大きな石を積んだままにはしておけないんだから」

「そんなに終わる時間が気になるなら手伝ってくれてもいいんだぞ? もともとそっちのミニガレオンには……」

「『ピッコラ』ちゃんね」

「……『ピッコラ』ちゃんには、石を積み込んだ奴らがいるんだろ?」

「そりゃゴーレムちゃんたちがいるけど、工房までの荷運びは料金に含まれてないし」

「わかったよ。だったらせめて今度からはもっと工房の近くに着陸してくれ」

「屋根の上でいいならね。このあたりで着陸できそうなのってこの広場くらいしかないんだから、それは諦めて」


そういわれたら仕方ない。重労働だが自分たちでやるしかない。

「ところで何をそんなに急いでいるんだ? このあと一杯やる時間もないってのか?」

「あはっ。ナンパのつもり?」

「まさか。ただ最近、話し相手が多忙でちょっと退屈でな」

「だったら残念ね。あたしも忙しいの。何しろこれからあたしは伝説のお宝を探さなきゃいけないんだから」


どうやらトレジャーハンターらしいこともちゃんとやっているようだった。

「あなた、セブンス連合がクセルルクス王国との同盟交渉のため、とある貴族に贈ったお宝の話って知ってる?」


(続く)