「そもそもギルティイノセント帝国が侵略戦争を始めたのは、エリザベス王国がランド自治領と協力して、もともと帝国領だったゲルハルト自治領に侵攻したからでした」
翌日の夜も俺はドミトリーと一緒に酒場で飲んでいた。
今晩は、フォレストアイランズに大きな影響力を与えていた4つの国家の最後のひとつ、セブンス連合についての話題が酒の肴だ。
「『フィフス戦役』という名前からも予想はできていたと思いますが、セブンス連合は当初フィフス連合と呼ばれていました。エリザベス王国、ファクト王国、ディアド自治領、グレイ自治領、ランド自治領。この五か国の連合です」
ドミトリーの口調に、先日感じたおかしな雰囲気はまったくない。
酒の入ったドミトリーの舌は、今夜もとても滑らかに動いている。
やはりあの時のこいつは、ただ泥酔していただけなのだろう。
「まず領土的野心に燃えたエリザベス王国が動き、それに対抗してファクト王国も北方のキリコ自治領に攻め入りました」
「……新しい単語が多すぎて覚えられん。つまりどういうことだ? セブンス連合、じゃなくて、フィフス連合? その中のエリザベス王国ってところが、ギルティイノセント帝国の領土に攻め込んだのか?」
「ざっくり言えば、そうです」
「だからギルティイノセント帝国は怒った、と」
「はい。ギルティイノセント帝国の反撃を受けたフィフス連合は、サラスヴァ王国と同盟を結んでギルティイノセント帝国を長らく足止めしました。それで『フィフス戦役』は終結。二つの新しい領土を手に入れたフィフス連合は、二つの王国と五つの自治領からなるセブンス連合として再誕したのです。領土拡大成功です」
「……なるほど」
「ちなみに、今でこそクセルルクス帝国の一部ですが、キリコ自治領はここで一度セブンス連合に加わっています。キリコ自治領は当時クセルルクス王国の隣国でしたから、クセルルクス王国も危機感は覚えたことでしょう。しかしキリコ自治領の領土が広大だったため、結果的にクセルルクス王国自身は『フィフス戦役』では被害を受けておりません。ゆえに後継者争いに専念できたという事情もあるのですが」
「それぞれのお国の事情はよくわからんが、ここまでの話はよくわかった。つまりその後に起こるギルティイノセント帝国の侵略戦争は、セブンス連合に奪われたかつての帝国領ゲルハルト自治領を取り戻そうとしただけだって言いたいんだな?」
「……そのへんに関しては、ご先祖様の古文書も私見を交えて記述すると注釈をつけています。事実、新皇帝はフォレストアイランズの統一をお題目として掲げ、戦争を再開していますから、それだけだったとはいいがたいです」
(続く)